ピロリ菌の退治法(除菌治療)とは?

【ますます注目される新型感染症】

 今年の2月、香港で新型の重症急性肺炎が発症し、世界中で大きく報道されています。この肺炎は、強力な感染力を持つ新型ウイルス(現在はSARSウイルスと命名)が原因であると判明しました。しかし、今のところSARSウイルスに対する有効な治療法は全くありません。万が一感染してしまった場合は致命的になる危険性も高く、「感染しないように予防するしかない」のが現状です。

 世界で初めてAIDSウイルスが発見された時も、たいへん話題になりました。これまでに様々な治療法が開発されていますが、未だにAIDSウイルスに対する簡便な特効薬はなく、やはり感染予防が一番重要な対策です。

 C型肝炎ウイルスの治療成績も近年飛躍的な進歩を遂げています。しかし残念ながら、まだ100%ではありません。

【ピロリ菌のなぜ?】
 ヘリコバクター・ピロリ菌も約20年前にヒトの胃粘膜から発見されて以来、胃潰瘍(図1)や十二指腸潰瘍、そして胃癌など、いろいろな病気と関連することが分かってきました。しかし、

1どうしてピロリ菌がいると病気になるのか?

2ピロリ菌に感染している人でも、なぜ病気になる場合とならない場合があるのか?

3どういう場合に治療を 受けるべきか?

4どういう治療法が一番いいのか?

など、明確に解決されていない疑問点がたくさんあります。 図1 ピロリ菌によって発症した胃潰瘍(内視鏡写真)

 このように、人類の病気との闘いの歴史は、「体内に侵入した細菌やウイルスなどの病原体(感染症)との闘いの歴史である」といっても過言ではありません。

 以下に、とても身近な感染症のひとつであり、現在極めて関心の高い「ピロリ菌」の上手な退治の仕方をご紹介しましょう。

【ピロリ菌のチェック】

@胃カメラが最適です!
 まず、自分がピロリ菌に感染しているかどうかをしらべるところからスタートです。一番確実なやり方は胃カメラ(図2)を利用した検査法です。胃カメラを受ければ、ピロリ菌のチェックができるばかりでなく、潰瘍やポリープ、そして一番心配な胃癌にかかっていないかが、確実に診断できます。カメラはたった約5分で終了する意外に簡単な検査です。是非一度検査を受けてみてはいかがでしょうか?

 胃の中にピロリ菌がいるかいないかは、胃カメラの終了後、早ければ30分から2時間程度で判明します(図3)。




図2 胃カメラシステム
図3 迅速ウレアーゼ試験
左:陰性
右:陽性
(溶液が変色している)


A念入りの洗浄が大事!

 胃カメラの検査に当たって、当院では徹底した内視鏡機器の洗浄を施行しています。検査終了後、次の患者さんの検査施行前には必ず、新型の自動洗浄器で内視鏡を一回一回確実に消毒しています(図4)。病気を発見し治療するための胃カメラ検査であるはずなのに、検査を受けたことによって万が一にも新たな感染症にかかってしまったのでは、たまりません。

 胃カメラを受ける前には、その病院で行われている内視鏡の洗浄の方法について問い合わせてみてはいかがでしょうか?その答えが医療レベルを明白に物語っているはずです。



図4 自動洗浄器


B呼気試験ってなに?

 しかし、やはりどうしても胃カメラは飲みたくないという場合には、呼気試験という検査法でピロリ菌を調べることができます(図5)。これは、ある特別な薬剤を内服していただき、約15分後に吐いた息(呼気)を回収・分析してピロリ菌のチェックを行うものです。特別な薬剤といっても、決して人体にとって有害な物質ではなく、その安全性は十分に確認されていますから、ご安心下さい。



図5 呼気試験

 この薬剤は胃の中でピロリ菌とだけ特別に反応します。ピロリ菌がいなければその薬剤は胃を素通りするだけですが、もしピロリ菌が存在すれば胃の中である特殊な反応が起こり、その後の呼気中に微量な変化が現れます。それを分析して診断します。

 結果判定までには1週間から10日間必要となりますので、後日外来を受診した際に、結果をご確認下さい。

【ピロリ菌の治療法】

Cどんな時に除菌するの?

 さて、残念ながらあなたの胃の中にピロリ菌の感染が確認された場合、つぎはいよいよその治療(除菌)に進みます。我が国でも2000年11月からは、正式に健康保険の適応が認可され、どなたでも除菌を受けられるようになりました。

 しかし、その際に気をつけなければいけない重要なポイントがあります。それは、ピロリ菌の除菌療法の適応は、胃潰瘍か十二指腸潰瘍の患者さんだけに限定されているということです。

 つまり、これまで何らかの検査を受けて胃潰瘍か十二指腸潰瘍であることが確認されている、もしくは今回ピロリ菌を確認するために施行した胃カメラで、胃潰瘍または十二指腸潰瘍が見つかった場合にのみ、健康保険で除菌治療が受けられます。

D除菌の必要性とは?

 潰瘍は潰瘍を治す薬剤を内服している期間は再発しにくく、中断すれば容易に再発します。従って何年も抗潰瘍薬を服薬する必要が生じます。これは高血圧や糖尿病の治療に際しても同様です。血圧や血糖値を低下させる薬剤を飲んでいれば効き目がありますが、自己判断で休薬すればあっという間に、もとの数値に戻ってしまいます。高血圧や糖尿病は生活習慣病といって、誤った食生活や運動不足など、長期間に及ぶ良くない日常生活の蓄積が原因です。ですから、その解決は短期間ではすみません。

 一方、十二指腸潰瘍の約9割、胃潰瘍の約6割はピロリ菌が原因であるといわれています。ピロリ菌感染が原因で潰瘍になったとすれば、ピロリ菌を退治することがすなわち潰瘍の根本的な解決になるわけです。潰瘍を繰り返している患者さんばかりでなく、初発の方もぜひ除菌療法を受ける価値があります。

 しかし、すべての潰瘍がピロリ菌によって起きているわけではなく、鎮痛剤の服用が原因となっている場合や、ストレスが原因の場合もありますから、その点は事前に理解しておくことが重要です。

 慢性胃炎など潰瘍以外の病気でピロリ菌が陽性と判明した場合、除菌にあたっては健康保険の適応が得られません。その際の除菌の有用性に関しては、外来の主治医と十分によくご相談のうえ、ぜひご検討下さい。

 ピロリ菌の検査法と、その治療の必要性について簡単にご説明しました。次回は、具体的な治療の内容と注意点、治療後の問題点、などについて解説する予定です。

(池澤 和人)