前回(5月号)は、ピロリ菌の検査法及び治療の必要性についてご説明しました。今回は、@ピロリ菌治療(除菌)の具体的な内容と、A副作用に関する注意点、B除菌の判定方法、について解説いたします。

さあ、除菌治療の開始です

 残念ながら、あなたの胃の中にピロリ菌がいることが判明したら、さっそく治療が開始されます。外来の先生から、ピロリ菌を退治する薬が処方され、薬局でそのお薬を受け取ります。まずお薬の内容を確認しましょう。そのなかには、2種類の抗菌剤(抗生物質ともいいます)と1種類の胃薬が入っているはずです。そしてそれぞれのお薬は間違いなく1週間分あるか?を確認します。

 ピロリ菌は決して強力な菌ではありません。しかし、胃の中から菌を完全に消滅させるためには、2種類の抗菌剤を同時に1週間併用する必要があります。もしかりに片方のお薬が効きにくい場合でも、もう片方の薬がカバーしてくれるからです。1種類の抗菌剤はペニシリン系の薬剤(サワシリンR)です。過去に同種の薬剤を服用して、副作用が出現したことがある方は、内服できません。かならず、医師または処方を受け取る際に薬局で薬剤師さんに申し出て下さい。もう1種類はマクロライド系の抗菌剤(クラリシッドR)です。ペニシリンと比較するとアレルギーの出にくい薬剤ですが、このお薬に関してもアレルギーの既往がある方は、内服を避けましょう。

 抗菌剤は場合によって胃の粘膜をあらすことがあります。また、胃酸が過剰に出ている場合は、胃の中で抗菌剤の効き目が低下してしまう恐れがあります。したがって除菌治療では、胃薬も服用しておく必要があります。つまり、これら3種類(2種類の抗菌剤と1種類の胃薬)の薬剤をもれなく、同時に服用してこそ、ピロリ菌をやっつける効果が発揮されます。どのお薬もかかさずに、決められた通り確実に飲みきることが肝心です。

 最近発売された「ランサップR」という薬剤は、3種類のお薬をひとつにまとめて梱包したパック製剤です(図1)。「飲み忘れをできるだけなくす」ための工夫が施されているお薬ですから安心です。



図1
「ランサップ
R400」
どんな副作用があるの?

 どんな薬剤でも、本来は望ましくない作用、つまり副作用が出現する可能性はゼロではありません。すなわち、副作用が全くない薬剤はこの世にはないのです。副作用とは、全員の患者さんで必ずみられるわけではなく、通常その発生頻度はかなり低いものです。

 副作用を必要以上に怖がっていたら、いつまでたってもあなたの胃からピロリ菌を退治することはできません。どんな副作用が多くみられるのか?どんな症状が出たら危険なのか?患者さんご本人が、確かな知識を持って除菌に臨むことが重要です。そうすれば、もし副作用が出た場合でもすばやく対応ができるので、最小限に食い止めることができるのです。

 除菌治療中におこりうる副作用のなかでは、「軟便・下痢」が一番よくみられます。先ほど解説した通り、ピロリ菌を退治するには抗菌剤が不可欠ですが、お飲みいただく抗菌剤は、ピロリ菌だけを狙い撃ちして退治する薬剤ではありません。体の中に棲んでいるさまざまな菌に対して、少なからず影響を及ぼします。なかでも「腸内細菌叢」と呼ばれる細菌群は大きなダメージをこうむります。この「腸内細菌叢」は、消化や吸収において大事な役割を担っており、この菌が正常に働かないと、消化不良を起こして軟便や下痢ぎみになってしまいます。この副作用は、除菌の薬剤を飲んでいる1週間だけの症状ですから、除菌終了後はすみやかに改善・消失するので、ご安心下さい。

 発生頻度第2位の副作用は、「味覚の異常」です。これは、マクロライド系の薬剤(クラリシッドR)を服用することによって生じる症状です。このお薬は服用後速やかに体内に吸収され、からだじゅうのさまざまな組織の中に取り込まれます。なかでも唾液中に多く移行するため、薬剤そのものの味である「苦味」が口腔内にあらわれます。金属を噛んだときのような味がするので、特徴的です。しかし口の中の感覚には個人差が大きく、まったく味覚の異常を感じない患者さんもたくさんいるので、安心して下さい。

 よく遭遇する副作用を表にまとめてみました。多くの症状は軽症ですが、もちろん油断はできません。除菌を開始する前に、お薬を飲むとどのような副作用が起こりうるのか、患者さんご自身で必ず確認して下さい。

できるだけ続ける!

 1週間の除菌治療中に、これまで説明したようなさまざまな症状が出現した場合は、はたして除菌の薬剤を中止すべきか?それとも継続するか?みなさん判断に迷うことでしょう。そのようなときは必ず外来を受診して下さい。頻度は低くても肝機能や腎機能に異常が出ていれば一大事です。採血をして内蔵の機能をチェックしなければいけない場合もあります。

 しかし一般には、除菌の薬剤は可能な限り中断しないで内服を続行することが肝心です。ピロリ菌が全滅する前に、もし途中で内服をやめてしまうと、ピロリ菌は息を吹き返し、しかもさらに強力な菌になっていく(耐性化)可能性があります。菌も一生懸命生き延びようとしますから、攻撃をしてきた抗菌剤に対して抵抗力をつけて戦い続けます。次回、ふたたび除菌を試みても、中途半端にやめてしてしまった抗菌剤はもう効き目が薄くなっていることが多いのです。日常生活に支障が出ない程度の「軟便・下痢」や「味覚の異常」の場合は、がんばって飲み続けましょう。

成功?それとも失敗?

 さて、やっとの思いで、除菌治療の1週間が終了しました。では、一体ピロリ菌は全滅したのでしょうか?その結果は、1ヶ月後に判明します。再度胃カメラを受けて、潰瘍のなおり具合を確認するとともに、ピロリ菌が消えたかどうかをチェックするのが一番理想的です。しかし、頻回に胃カメラをしなくても、ピロリ菌がいるかいないかを確認できる「呼気試験」(図2)での除菌判定が一般的です。外来で予約をとりましょう。

 除菌の直後には、ピロリ菌は大きなダメージを受けていますから、菌の量はかなり減少しているか、もしくは全滅しているはずです。もちろん、全滅していれば安心です。しかし、たった1個の菌体でも残ってしまうと、その菌が次第に増殖を繰り返し、いずれ除菌薬を飲む前と同じ状況に逆戻りしてしまいます。除菌直後に検査をした場合、ゼロなのか少ないピロリ菌が残っているのかまでは区別ができません。1ヶ月間隔をあければ、全滅したか失敗したか、はっきりと判定できます。なお、除菌に失敗した場合では潰瘍が再発する危険性があるので、除菌判定までの間は、胃薬の内服を継続しておく必要があります。

 次回の内容は「除菌後の問題点」と「今後のピロリ菌治療の展望」についての予定です。 (池澤 和人)


図2呼気試験