原発性胆汁性肝硬変に
肝癌を合併した症例の経験


1.原発性胆汁性肝硬変(略してPBC)

a.はじめに

 慢性に肝臓を傷害する病気として、ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎)は最近では随分と有名になりました。マスコミなどに登場する機会が多く、本人や家族に特に肝臓の病気がなくても、一般の人々の認識として定着してきた感があります。一方、今回の話題で取り上げます「原発性胆汁性肝硬変(PBC)」といった病気は、まだ充分に知られているとはいえないようです。そこで以下に病気の認識を広め、注意を喚起する目的で肝癌を合併した症例を紹介します。

b.PBCとは

 PBCの病気としての認識は、19世紀頃から既にあったようですが、今の名称が使われるようになったのは、1950年頃からです。日本では厚生労働省の「難治性肝炎」調査研究班により診断の基準が定義されています。その一部を紹介しますと、PBCの特徴は、@中年以降の女性に好発する、A皮膚の掻痒感で始まることが多い、B検査データでは、血沈の促進、血清中の胆道系酵素(ALPなど)、総コレステロール、IgMの上昇を認める、C抗糸粒体抗体(AMA)が、高頻度で陽性となる、といったように要約されます。注意しなければいけないこととして、薬剤による肝障害でも胆道系酵素の上昇を認めることが多いので、既に薬を服用している人の場合には、薬による肝障害でないかをよく見極めなければなりません。また、実際に患者さん方と話していて言われることは、原発性や肝硬変といった言葉に不安感や、恐怖を感じるといったことです。この場合の、「原発性」とは、他に原因がない、あるいは原因不明であるといったような意味です。「肝硬変」は、PBCの場合は、あくまで病気の名称の一部です。従って、PBCと診断された方の中には、皮膚の掻痒感や、黄疸もなく、肝障害に基づく自覚症状を欠く、無症候性といわれる患者さんが約6割も居られます。一方で、黄疸や腹水、食道静脈瘤などの合併症に悩む、いわゆる肝硬変にまで進行した患者さんも居られます。

c.PBCの診断

 PBCの日本国内での統計がきちんと取られるようになったのは、この約20年程のことです。様々な報告をごく大雑把に要約すると、大体、人口一〇〇万人当たり、2030ほどといわれていますが、ヨーロッパではこの数倍の数値を示している国があります。また、当院でPBCの疾患登録をしている方は、60人以上居られますので、水戸の医療圏が約60万人程と考えても、実際の有病率はもっと高率ではないかと考えております。その一つの理由としては、最近の健康意識の高まりから、健康診断で胆道系酵素の異常から診断される症例の増加によるのではないかと考えております。

2.PBCの合併症

a.様々な自己免疫疾患

 紙面の関係で簡単に列挙します。

シェーグレン症候群(乾燥症候群)、慢性関節リウマチ、強皮症、
  多発性筋炎、慢性甲状腺炎、自己免疫性肝炎

b.骨粗鬆症

c.食道静脈瘤、腹水

d.胆石

3.PBCと悪性腫瘍

 従来PBCと肝癌の合併は稀であるとされてきました。世界的な統計でも0.5〜4%程度の合併率とされてきました。肝癌以外では乳癌、胃癌、大腸癌が多いと言われています。今回当院で、その稀と言われている肝癌を3例経験したので紹介します。1例はPBCの診断から10年以上経過した方でした。あとの2例はいずれも80歳前後の方でした。診断時のCTを示しています。80前後の2例の方は既に腹水が貯留しています。詳細な経過は紹介できませんが、いずれの方々も腹部超音波検査や腫瘍マーカー(AFP)の定期的な採血で、比較的小さな時期から診断がついていました。(CTは典型的な時期のものを掲示しました)

4.まとめ
 今回の話題としては比較的なじみの薄いと思われるPBCを取り上げました。当院の統計からは従来言われていたよりも多い患者さんの登録がなされ、また、合併症としての肝癌も、症候性の方に限定すると、以前言われていたよりも高率(約3倍以上)でした。このことから、症候性のPBCの患者さんの注意点として、採血だけでなく、腹部超音波検査、上部内視鏡検査を定期的に受ける必要性がお分かりになると思います。また、我々臨床医も、従来の統計だけを鵜呑みにするのでなく、思わぬ見落としのないように留意しながら日常診療に臨むように一層努力して参ります。
(小島 眞樹)