高齢者福祉施設での食事は利用者の方々の最大の楽しみの一つであり、栄養のバランス、適正エネルギーの摂取は勿論の事、すべての利用者においしく召し上がっていただけるよう、『食』そのものの向上と共に一人一人の健康管理に重点を置いた、きめ細やかなサービスが求められる時代となりました。
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食事摂取状況調査 |
つねずみ栄養室では、この4月から2名の新卒者が加わり管理栄養士を含む計4名の栄養士により週2回『食事摂取状況調査』を実施しています。
この調査の目的は、利用者の方々の食事摂取状況の観察と聞き取り調査により個人の嗜好、量、食欲、好みの変化を把握し、全ての利用者が健康状態にあった食べ物を選択できるようにすることです。
普段は厨房で一心不乱に調理に励む栄養士も利用者の方々の反応は、大変に興味深いものです。配膳が終わると同時に食堂に向かい感想や希望を伺います。しかし利用者の皆さんは一様に謙虚で、なかなか本音を語って下さいません。多くの方が、団体生活の中で個人の意見や希望を伝えることは身勝手と感じているようです。それでも皆さんお話しすることは大好きなご様子、何回か足を運ぶうちにお若かった頃の話から始まり、ご家族やお仕事の話、施設に入る前の食生活へと話しの内容も深まり徐々に現在の食事についても感想を伝えて下さるようになってきました。
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摂取カロリーの確認 |
5月、会議の中でドクターから、近年高齢者の低栄養状態が深刻な問題になっており何らかの対策が必要であることを知らされます。高齢者は加齢と共に心身の諸機能が低下し咀嚼力、味覚閾値、嚥下能力、消化吸収能力が低下し、特に要介護者は低栄養状態に陥っている人も多く、その状態が続くと心身の更なる機能低下を招きかねません。
つねずみ栄養室では、もう一度カロリーの見直しを行うことになりました。献立上の摂取カロリーが満たされてはいるものの利用者の方すべてが同じように摂取しているとは限りません。そこで、目を向けたのは個人対応の幅が広い主食です。これまで、特にドクターの指示のない利用者の方々には、嗜好を優先として主食を選択していただいていたため、おかゆを主食にしている方が多いことに気づきました。嚥下困難の方を含めると80人の入所者のうち26名です。
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おかゆからご飯へ |
ご存知のとおり水分の多いおかゆは少量で満腹感があり、ご飯と同じカロリーを摂取するにはかなりの量が必要ですので食の細い高齢者には大変なことです。できることならご飯を主食にし無理せず安定したカロリーを確保したいものです。
急きょ、これまで実施していた栄養摂取状況調査を6月はカロリーアップ強化月間とし、おかゆを選択している入所者の方のご飯への移行を試みることにしました。この頃には利用者の皆さんが栄養スタッフに気軽にご自分の意見を話していただけるまでになり、率直な意見をお聞きすることができました。また、意思疎通の難しい方々については看護士、介護士と意見を交換しながら、咀嚼困難・嚥下困難等の問題のない方で特に本人からの希望がない方16名に限り試行的にご飯に変更していただくことにしました。
3日後、5名の方が「飲み込みにくい。」「口に合わない。」「むせる。」「習慣で食べやすいからおかゆにしたい。」などの理由からご飯を中止しました。
その後の食事摂取状況調査でも残りの11名の方は順調にご飯を召し上がっていらっしゃる様子です。ご本人からも、「ご飯はやっぱりおいしい。」「ご飯にしてよかった。」と大変満足そうなお声も聞くことができました。
3週間が過ぎ、お昼のメニューは3色おにぎりです。お赤飯、枝豆入りご飯、鮭ごはんと、色とりどりのおにぎりが食卓を飾ります。大好評のおにぎりやおすしのメニューは普段おかゆを選択されている方も皆、同じものを召し上がっていただいています。これを機にまた、改めてごはんに変更していただけるかもしれません。早速、皆さんが召し上がっている食堂へと向かいます。ほとんどの方が、3つのおにぎり全て召し上がっていたので、「また、ごはんを召し上がってみてはいかがですか?」とお尋ねすると、「おにぎりはおいしいけど・・・普段はやっぱりおかゆがいいですね。」というお答えが返ってきました。毎回実感することですが、このように普段は少量のおかゆしか召し上がれない方もお寿司やおにぎりのメニューなどはいつもより沢山召し上って下さるのです。
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食事環境の大切さ |
7月初旬現在、変更していただいた11名中退所者を除いた9名の方全員に問題なくご飯を召し上がって頂いており、またご本人にも満足していただいているということがわかりました。中には「ご飯を食べると噛むのが遅くなって皆より食事時間がかかるから遠慮していたのです。」とおかゆを選択していた方もいらっしゃり、食事の内容もさることながら、ゆっくりと食事ができる環境の重要さを思い知らされました。
つねずみ栄養室では現在、おにぎり、お寿司などの主食の変化を多くし、またごはんが食べられない方にはパンを、食欲のない方にはのど越しのよいおかずやデザートを追加するなどしてカロリーアップをはかっています。それと同時に、看護、介護スタッフにより食事介助が必要な方もそうでない方も、ご自分のペースで気兼ねなくゆっくり食事をしていただけるよう、食事時間を十分に配慮した環境も整えることができました。
今後は今以上に利用者の方々とのふれあいを大切にし、また「食」そのものの向上と同時により良い健康管理ができるようスタッフ一同頑張っていきたいと思います。
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(栄養士 相川 佳奈) |