【はじめに】

 前回、みなさんがなじみのある脳梗塞についてお話しました。 しかし、今回のテーマはパーキンソン病です。 この病気は、おそらく、みなさんにとって脳梗塞ほどなじみがないものと思います。 そこで今回の話はパーキンソン先生から始めましょう。

ジェームス・パーキンソン先生
 ジェームス・パーキンソン(James Parkinson)先生は、1755年4月11日、ロンドンで生まれました。 かれは外科医になりましたが、同時に古生物学、地学史にも興味を持っていたようです。1817年、62才の時に彼はロンドンのSherwood,Neely and Jonesという出版社から「振戦麻痺に関する小著」(An Essay on the Shaking Palsy)という小冊子を発表し、この病気について書き記しました。 そのわずか7年後の1824年、パーキンソン先生はお亡くなりになりましたが、同じ世紀の同じ世紀の後半になってフランスの高名な神経学者であったシャルコー(Charcot)先生がこのろんぶんの重要性に気づきこの病気をパーキンソン病と名づけました。 ソレイラ、今日にいたるまでこの病気はパーキンソン病として知られることになりました。

【パーキンソン病の症状】
かつてパーキンソン先生が書き残したこの病気の特徴は、今日でも殆ど通用するほど正確なものでした。 ただし、彼が命名した「振戦麻痺」という言葉は今日全く使われません。 パーキンソン病の患者さんには筋力低下が見られないので、筋力低下を伴う運動障害を示す「麻痺」という言葉は不適切だからです。
 この病気の特徴は次の四つ(1)無動、(2)筋強剛、(3)振戦、(4)姿勢反射障害、にまとめることができます。

(1)無動というのは、動きが少ないことを指します。 典型的パーキンソン病の患者さんが座っているところを拝見すると、少しうつむき加減に顔を固定し、辺りを見渡すことはなく、背中を丸め、じっとしています。 瞬きもあまりしません。 立つときもゆっくりと動き、歩き出すまでに時間がかかります。

(2)筋強剛というのは、筋肉が硬く強張っていることを示します。 私たちが筋肉のこわばりをみる時、パーキンソン病の患者さんは自分ではリラックスしているとおもっていてもその筋肉の緊張はとれていません。 したがって、患者さんは何をするにも抵抗に逆らいながら手足を動かしているような感じがするのです。(漫画「巨人の星」で星飛雄馬君が手足につけていた大リーグボール養成ギブスを覚えていますか?パーキンソン病の患者さんは、あれをいつも身に付けているようなものです。疲れやすいのもうなずけます。)

(3)振戦というのは手足のふるえです。 ふるえにはいろいろな種類があり、みなさんよくご存知なのはアルコール中毒の患者さんのふるえでしょう。 あのふるえは何かしようとするとおきるので、動作時振戦とよばれます。 また家族性振戦というたちの良いふるえもあり、これは手足を一定の姿勢に保とうとするとおきます。 これらに反してパーキンソン病の振戦hは何もせずじっとしている時にでるので。安静時振戦と呼ばれます。 このタイプのふるえは他の病気でみられることはあまりなく、これだけでパーキンソン病を疑う重要な根拠になります。

(4)姿勢反射障害をご理解いただくには、少し説明が必要です。 人が歩いている時、身体が前へ動いているのに倒れないのはどうしてだろうって考えたことがありますか? このとき、働いているのが姿勢反射なのです。 直立という姿勢を維持しながら体を前に動かすのはかなり困難なことなのですが、ふつうの人は意識せずにこれができます。 しかし、パーキンソン病の患者さんはこれが困難になり、転びやすくなります。 また、一度体が前に出るとその姿勢を立て直すことが困難なので、どんどん前につんのめるように進んで行きます。 これは突進歩行という名前がついてるパーキンソン病の特徴的症状です。

【パーキンソン病の診断】

 これまでにお話した症状を持った患者さんにお会いすると次にすることはパーキンソン病なのか、パーキンソン症状を示す他の病気(これをパーキンソン症候群と呼びます)なのかを区別しなければなりません。 そのため、神経内科医は頭のCTまたはMRIをとりましょうと言います。 この検査で多発性脳梗塞などのパーキンソン症状を起こす原因が見つかれば、その患者さんはパーキンソン症候群と診断します。 つぎにこれまでに服用している薬について検討します。 うつ病の薬、食欲不振の薬、幻覚を抑える薬などでしばしばパーキンソン症状がおきるからです。 いずれにも当てはまらなければ、次にパーキンソン病として治療してみます。 この治療効果がはっきりと出れば、パーキンソン病として診断してまず間違いはありません。

(荒崎 圭介)