【はじめに】

 消化器内視鏡学の発展に伴い、以前は手術でしか治療できなかった疾患に対する「内視鏡的治療」が盛んに行われるようになった。 しかし、「治療」は、的確な「診断」のもとに行われる行為であり、なによりまず「診断」が最重要であることはいうまでもない。 患者さんに病気が存在することは不幸な出来事である。 が、たとえどんなに小さな早期ガンであっても、それを見落としてしまったら、より不幸な結果になる。 常にあらゆる病変が存在するかもしれないという可能性を念頭におきながら、検査を行う心構えが内視鏡医には不可欠である。

【内視鏡の進歩】
 この数年における内視鏡の進歩には、めざましいものがある。 検査機器への医工学の応用が大きく貢献している。 「人間の視覚に適した広い画面」「すみずみまで見える大光量」「高画素CCDによる高解像度の良質な画質」などが得られて、微小なガン病巣までをも見逃す事なく、診断できるようになった(図1)。







図1:胃前庭部の大きさ約5mmの早期胃癌
【内視鏡の治療への応用(各論)】
1.出血性潰瘍の止血術
 吐血又は下血を主訴に来院した場合、かならず当日のうちに緊急内視鏡を施行して、出欠点の確認と確実な止血術を行う必要がある。 内視鏡的に止血が出来れば、ほとんどの症例で手術することなく治癒が得られる。

2.消化管異物の摘出術
 誤って、錠剤やカプセルのPress Through Package(PTPシート)を飲み込んでしまったり、義歯がはずれて咽頭や胃内に留置した場合、それらの異物を内視鏡的に摘出することができる。

3.腫瘍の粘膜切除術
 リンパ節および多臓器への転移がない早期(粘膜内)ガンは、内視鏡的治療の適応となる。 腫瘍の大きさ、深達度、組織型を十分考慮して、確実な診断のもとに治療を行う(図2ab)。

4.結石の採石術および胆道拡張術
 総胆管結石では、内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)を行ったのち、十二指腸乳頭切開(EST)を加えて、内視鏡的に切石・除去することが可能である。 しかし、十二指腸穿孔や術後の閉そく性化膿性胆管炎、急性膵炎のリスクも少なくない、熟練を要する内視鏡手技である。


図2a

図2b
【おわりに】

 もちろん、あらゆる消化管疾患が内視鏡にて治療できるわけではなく、むしろ内視鏡治療の適応となる場合の方が少ない。 いまだに、主役は外科的治療である。 内視鏡治療とは、適切な診断結果に従って、充分な知識と熟練のもとに施行することが肝要である。

(筑波記念病院 消化器内科  池澤 和人)