【治療法の紹介】
 パーキンソン病の治療法には、内科的治療法(薬をのむ方法)と脳外科的治療法(脳の中に細い針を刺して電気を流す方法)とがあります。

(1)内科的治療
 パーキンソン病を治療するために用いられる薬をパーキンソン病治療薬といいます。これを大別すると次の5種類になります。

(A)L-ドーパ (商品名はメネシット、ECドパールなど)
 パーキンソン病の患者さんの脳では、ドーパミンと呼ばれる神経伝達物質(神経細胞間の連絡をつかさどる物質)が不足します。そこで外からこのドーパミンを補給して症状を改善させようという発想が生まれましたが、ドーパミンはのんでも注射しても脳内へ入りません。そこで、Brikmayer先生は体内でドーパミンになる別の物質を注射すること、Cotzias先生はこの物質をのんでもらうことを考えました。
この物質こそL-ドーパであり、その利用はパーキンソン病治療の夜明けとなりました。その経過は「レナードの朝」というアメリカ映画に興味深く描かれています。本来は喜劇が得意なロビン・ウイリアムズがL-ドーパによってパーキンソン症状を治療する医者というシリアスな役を好演していました。

(B)ドーパミン受容体作動薬 (商品名はカバサール、ビシフロール、ペルマックスなど)
 L-ドーパは優れたパーキンソン病治療薬ですが、長期間のんでいるといろいろな副作用が出ますし治療効果も減ります。この問題点を解決するため、ドーパミンと同様に作用するL-ドーパ以外の物質が探し求められてきました。その中で、ドーパミンが結合して作用を発現するタンパク質(ドーパミン受容体)に直接働くL-ドーパ以外の薬をドーパミン受容体作動薬と呼びます。
この種類の新しいパーキンソン病治療薬の開発は現在も盛んであり、毎年のように新薬が登場しています。

(C)セレギリン (商品名はエフピー)
 ドーパミンは体内で代謝され、パーキンソン症状を改善する作用のない物資へ変わります。その経過を遅らせれば、L-ドーパの作用を強めることができます。そこで登場したのがセレギリンです。しかし近年、セレギリンにはパーキンソン病患者さんの脳内でドーパミンを作っている神経細胞の生存を助ける作用もあるらしいということが分かってきました。つまり、セレギリンにはパーキンソン病の進行を抑制する作用もあるらしいのです。

(D)アマンダジン (商品名はシンメトレル)
 この薬は今日、A型インフルエンザの治療薬として知られていますが、ドーパミンの放出を促進する作用もあります。そこで、この作用を使ってパーキンソン症状を改善することができます。しかし高齢者には幻覚を起こしやすいという欠点があるため、その利用には限界があります。

(E)抗コリン薬 (商品名はアーテンなど)
 パーキンソン病患者さんの脳では、ドーパミンが不足するためアセチルコリンという物質が相対的に増えます。これを抑えてパーキンソン症状、特に振戦を改善しようというのが、抗コリン薬をのんでいただく目的です。しかしこの薬はいろいろな副作用が出やすいため、今日では(A)-(D)の薬の補助として用いられるに留まっています。


(2)脳外科的治療
 これまでお話してきたいろいろなパーキンソン病治療薬を全て試してもなかなか思うような効果が得られない時、手術的治療を考慮します。手術によって症状が改善できる可能性が高い条件をまとめてみると、以下のようになります。

(A)過去に十分なパーキンソン病治療薬による治療が行われたこと
(B)日常生活動作の障害が中等度以上であること
(C)全身状態、精神状態が良好であり、知能も保たれていること
(D)頭部CTまたはMRI上、脳の萎縮がないこと
このような条件を満たしている患者さんが、(1)振戦やそのほかの不随意運動にお困りの場合、(2)パーキンソン病治療薬の効果が一日の内で極端に減弱することがある場合、手術的治療について考えてみることをお勧めしています。ただし、この手術はどこの脳外科の施設でもできるものではなく、十分な経験と実績のある施設を選択すべきです。

【治療法の選択】
 以前お話したように、パーキンソン病を診断するにはパーキンソン病治療薬によって症状が良くなるか否かの判定が欠かせません。そこで神経内科医がパーキンソン病らしいと診断しますと、患者さんにはパーキンソン病治療薬をのんでいただき症状がよくなるかどうかを見せていただくことになります。パーキンソン病治療薬による治療開始には、国際的に定められているいくつかの原則(このような決まり事はグローバルスタンダードと呼ばれます)があります。

(1)まず、治療は日常生活における障害が明らかになってから始めるべきであると決められています。ガンと異なり、パーキンソン病は治療が遅れると手遅れで命取りになるという病気ではありません。またパーキンソン症状が軽微だとパーキンソン病治療薬の作用の判定が困難です。しかし、パーキンソン病治療薬の副作用が出てくる場合には症状の重症度には無関係に出現します。このような状況を総合して考え、パーキンソン病治療薬の投与は症状が軽微なうちは慎みましょうというわけです。

(2)つぎに、パーキンソン病治療薬をのんでいただく場合、その量は症状を軽快させ日常生活を何とか続けられる程度の最小必要限度にすることに定められています。その理由は?でお話したことと同様です。

(3)治療開始時に用いられるパーキンソン病治療薬の種類にも原則があります。患者さんの年齢が60才以下で比較的軽症であればドーパミン受容体作動薬を始めます。一方、65才以上の患者さんや重症の患者さんには初めからL-ドーパが使われます。

【終りに】

 与えられた紙面をオーバーしてしまいました。今回のお話は少し難しかったかも知れません。しかし、病気の診療にあたって医者が治療方針を説明し、患者さんはそれを理解したうえで同意することが求められている時代です。もしご自分がパーキンソン病と診断されたら、その治療を医者まかせにするのではなく、自分の病気を理解し実りある人生をおくるために医者を利用してほしいと思います。

(荒崎 圭介)