音楽療法について

 皆さんは「音楽療法」と聞くとどのような事を思い浮かべますか?
 歌を歌う事、楽器を叩いてリズムをとる事、ヒーリング音楽やモーツァルトの音楽を聴く事などがあるかと思います。
 近年では、病院や施設などを中心にストレスを抱える現代人の癒しとしても幅広く音楽療法が行われています。
 それでは「音」について一緒に考えてみましょう。1分間、目を閉じて耳を澄ましてみましょう。
 どのような音が聞こえてきましたか?鳥や虫の音、車のエンジン音、テレビやラジオの音、雨や風や雷の音、食器を洗う音や洗濯機の動く音など数十種類にも及ぶ音が聞こえてきたかと思われます。そして、時間、場所、季節などによっても聞こえてくる音は変わってくるでしょう。
 このように私たちの日常は音にあふれている生活といえ、音と上手につきあっていく事が音楽療法への第一歩になります。

 私が音楽療法に取り組むきっかけとなったのは、最初の妊娠、早期破水で入院した時の事でした。在胎22週での破水は、胎児の肺の低形成や身体の拘縮など、身体的障害の他にも知的障害を持ち合わせて産まれてくる可能性が高い事や、最悪の場合“死”の危険性もあります。不安を抱えながらの入院生活となりました。
 医師の説明を聞いてからの毎日は、昼間は明るく振る舞い、夜はカーテンをきっちり閉め、声を殺して泣いておりましたが、2週間もすると気持ちも整理され、少しずつ普段の自分に戻ってきました。ベッドで安静にする毎日はとても退屈でひたすら長い一日でしたが、唯一の楽しみは音楽を聞く事でした。
 入院生活というものがいかに自由を制限され、季節の移り変わりや世の中の動きや感情の起伏が失われてくるのか身にしみました。
 在胎32週で帝王切開になり未熟児を出産しましたが、すぐにこども病院に搬送され、最新医療による治療により、6週間後無事に新しい家族をむかえる事ができました。産院の看護士は口々に“奇跡の子”と言い、私自身もその時の事を思い出すと、今でも胸が熱くなります。医師や看護士、友達や家族の支えももちろんですが、目には見えない大きな力が奇跡を起こしたのだ・・・と信じております。感謝の気持ちを少しでも社会に役立てたいという想いから、幼少の頃から慣れ親しんでいるピアノや歌や音楽の知識を生かせる事、音楽療法へとつながりました。
つねずみでのとりくみ

 最も大切にしているのは、私が感じた入院生活でのストレスを少しでもとりのぞき、日常生活に近づく生き生きとして精神活動ができる空間・場所作りです。
 週1回の音楽療法(音のひろばと呼んでいます)では、童謡や季節の歌、ナツメロ、民謡などを選曲し、認知症やまひなどの進行の程度に関係なく楽しめるようにしております。
 曲に合わせてリズム楽器(鳴子、すず、タンバリン等)を叩いたり、シフォンのスカーフを使い歌い踊り、ピアノ伴奏でラジオ体操をしております。皆さんの動きをみながら弾きますので無理なく体を動かしていただけるかと思います。
 音楽は人間の心の奥深くにある孤独や寂しさや言葉に表せない複雑な思いを包み込み、癒し、なぐさめ、温かくしてくれます。美しい音楽を聞いて泣く事もあれば、昔を思い出し涙を流す事もあります。
 泣くという事は笑う事と同じくらい大切な心の動きです。
 とても美しく清々しい涙と天真爛漫で無垢な笑顔に触れる時間は、私にとりまして何にもかえがたい喜びです。
 セッションの最後に「故郷」を歌います。本当に素敵な日本の原風景が描かれています。
 皆さんもご一緒に「故郷」を歌いに、つねずみにお越し下さい。

 ♪兎追いし かの山
       小鮒釣りし かの川
            夢は今もめぐりて
                 忘れがたき 故郷♪
(石島 紀子)