肺癌が胃癌を抜き癌死のトップであることをご存じですか?発生率も増えていることに加え、治療成績が進歩していないということも原因です。肺癌の治療は病期により選択され、手術・放射線・化学療法などがあり、単独あるいは併用して行われています。免疫療法・遺伝子療法の研究もされてはいますが、何れにしても早期に発見されなければ助かりません。組織の型(表1)にもよりますが、手術成績では10ミリ以下でしたら100%、15ミリ以下でしたら90%、しかし20ミリ以上になりますと治療成績は落ちてきます。
それでは、肺癌死を減少させるにはどうしたら良いのでしょう。それにはまず危険因子を除去することです。肺癌の発出率が高いのは、高齢者と喫煙者であるというレポートが、2005年にアメリカの多施設研究チームで改めて発表されました。加齢は防ぐことはできません。そうなれば能動喫煙・受動喫煙ともに、ともかく避けなければなりません。禁煙対策はもっとも大切ですが、日本は先進国でもっとも喫煙率が高く対策が遅れています。欧米諸国では禁煙の効果が現れ肺癌罹患率が減少しているのに、日本は増えているのです。禁煙対策は急務です。特に若い方の喫煙が問題です。 二番目に必要なのは肺癌検診です。日本は世界で唯一、胸部X線による肺癌検診を実施している国です。 結核検診の伝統を引き継いだ胸部写真による検診が普及しておりますが、肺癌の発見率が低いことでその是非が問われています。しかし、当院で施行の水戸市の検診やその他の検診で早期に発見され、助かった方もこの5年間で10名以上おられます(詳細なデータは当院の健診委員会で集計していますので、後日発表させていただきます)。検診自体は決して無意味なことではないと思います。 それではなぜ肺癌の死亡率が低下しないのでしょう。その方法に問題があると思います。市の健診も含め殆どの検診は胸部の単純写真一枚で判断することになっています。しかし肺の写真は全く同じ物はありませんし、数式のような決まった形はありませんので、異常所見を発見するにはかなりの経験を要します。 しかも、胸部の単純写真には肺だけでなく、心臓・骨(肋骨や胸椎)・大動脈や肺内の血管等が重なって写りますし、撮影時の呼吸の仕方でも差がでますのでますます読影(写真を解析すること)を複雑にしています。そのため比較読影といって当院で過去に撮影した写真と比べ合わせたり、2方向撮影をしたり、またFCRというコンピュータで画像処理をしてきれいな写真が撮影できる装置を取り入れたりし、かなり精度はあがってはいますが、それでも100%異常陰影を検出することは困難です。それではどうしたら早期の癌を見つけることができるのでしょう。そこで登場するのがCTスキャンです。初期のCTでは、解像力の問題で小さな肺癌の検出は困難でしたが、最近のMDCTでは短時間で肺全体の描出が可能となりました。CTは解像力に優れ、胸部写真と異なり死角が無く、数ミリの病変を検出することができます。CTが進化したことで、今までCT検診の問題点であった、撮影時間が長いことや被被曝線量が大きいということは解消されつつあります。 当院での症例を呈示します。何れも胸部写真では異常を指摘できなかったか、断定できなかった症例です。写真1の症例は、手術をされ現在お元気です。写真2の症例は高齢のため癌に対する治療はできず自然経過をみているところです。このように、現時点ではCTが肺癌の検出には一番有効な方法と各方面からデータが出されています。
CTの場合、胸部写真での肺癌発見率の10倍の精度という報告もあります。また、CTで発見された肺癌は早期癌が多く、5年生存率でも良好な結果が得られています。 最近話題のPET検査は、癌組織の増殖が盛んなことを利用したものなので、進行のゆっくりした肺癌は検出されません。早期発見のためにはCTを有効に活用して下さい。特に中年以降の喫煙者の方は、是非検査をされることをお勧めします。また、喫煙者だけでなくアスベストに接したことがある方も中皮腫・肺癌のチェックが必要です。それからCTは、肺癌だけでなく喫煙と強い関係がある肺気腫の検出にも優れています。 一方、CTでの問題点は機械が高価であり、その結果検査費用も高価であることと、気管支原発の癌は分かりにくいということです。喫煙者や汚い痰がでる方は、CTスキャンと平行して喀痰検査をされることをお勧めします。 今、タバコを吸いながら・・ひろば・・をお読みになっておられる方、血痰が出てからでは手遅れです。禁煙するのに遅すぎることはありません。今日からでも禁煙なさって、きれいな肺になりませんか? そして、年に一回は肺のCT検査と喀痰検査をお受け下さい。 |
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(相川礼子) |