レントゲン写真(以下「レ線写真」)は現代の医療には欠かせないものです。しかしレ線写真が万能というわけではありません。レ線写真で何がわかり、何がわからないか。その有用性と限界について、特に、骨と関節の写真をもとにふれてみたいと思います。
レントゲン写真とは
 レ線写真といわれる検査は正式にはエックス線(X線)検査といいます。
 1895年ドイツの物理学者レントゲンが、陰極線の研究の際に物質透過能や電離作用を持った未知の「線」を発見しましたが、その本体がわからないためX線と名づけました。X線は発見されると間もなくより医療に応用され今日に至っております。
レントゲンで何がわかるか
 X線は金属や骨など透過しにくいものとよく透るものとがあります。その差を利用して診断に役立てます。骨のような透過性の低いものはその姿かたちがよくわかります。したがって骨の診断には欠かせないものとなっています。
なぜ同じところの多方向撮影をするのか
 レントゲン写真は「影」を描出するものですから、一方向に二つのものが重なれば一つのように見えてしまいます。複数の方向から見ることによってより正確な姿かたちや位置関係がわかるようになります。
 また、脊椎骨のように形態が複雑な骨や膝や肩などいくつかの骨が組み合わさった関節のような場合は、観察したい部分が最もわかりやすく描出される方向からの撮影を行います。
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 1・2は前腕の写真です。1では骨折部が重なって骨折の存在が明瞭でありません。2のように前後方向を併せて撮ることによって尺骨の骨折が明瞭に描出されます(矢印)。ちなみにヤンキースの松井選手もこの骨とおなじ尺骨を骨折とのこと。

 1  2
日にちをおいて再度撮影する
 症状から想定された所見がどうしても描出されないときがあります。そういう時は日にちをおいて再度撮影する必要があります。
たとえば胸部を強打して強い痛みがあるので肋骨骨折を疑いレントゲン検査を行なっても骨折がはっきりせずに、1週間程度経ってから再度検査を行なうと明瞭な骨折が描出されることがよくあります。
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 3・4は鎖骨端部骨折の写真です。3では一見骨折がないように見えますが、一週間後(4)は骨折部に転位が起こり、骨折が明らかとなっています。

 3  4
レントゲン写真一枚で決定的な診断が
 レ線写真を1〜2枚撮れば、たったそれだけで簡単に診断がついてしまうことがいくらもあります。いくつかを紹介しましょう。
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 5は骨粗鬆症の高齢者が転倒して生じた上腕骨近位部骨折の写真です。よくある骨折で、この症例はレ線写真ひとつで簡単に診断のつくいい例です。

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 また、骨折と限らず、特異な所見から容易に診断がつくことがあります。6・7は前立腺癌の脊椎転移の写真です。雲がかかったように椎骨が白くなり、濃淡ムラがあり、正常な骨梁構造が失われています。前立腺癌転移の特徴的な所見です。
6 正面像  7 側面像

 8・9は大腿骨の慢性骨髄炎の写真です。子どもの頃に患った重篤な骨髄炎が慢性化し、未だに瘻孔(矢印)が残っています。骨の破壊と再生を繰り返し、弯曲や変形・骨吸収を生じています。この写真一枚からもこの方の苦難の生活歴がうかがえます。
 8 正面像  9 側面像

 10は左脱臼性股関節症の写真です。左右の股関節を比べれば、左側が異常な形状を呈していることが容易に分かります(矢印)。
 10
単純写真にCTやMRIを組み合わせて診断
 骨の単純写真だけでは判断がつけにくいこともたくさんあります。そのようなときは他の検査を組み合わせて診断します。いくつか例示します。

 11は頚椎の単純写真です。第4、5頚椎の後方にうっすらとした陰影が認められ、「後縦靭帯骨化症」が疑われます。
 同じ部位のMRI(12)では後縦靭帯が骨化して盛り上がり、脊髄に圧痕を加えている様子が一目瞭然に描出されました。

 11  12

 13・14は腰椎の単純写真です。40才のこの方は明らかな椎間板ヘルニアの症状を呈していましたが、単純写真では異常所見はありません。
 13  14

 MRI(15,16)を行ったところ、第3/4腰椎椎間板(矢印)の外側に発生した比較的珍しいタイプの椎間板ヘルニアであることがわかりました。このようなヘルニアは「椎間板造影」などの特殊造影検査を行うか、こうしたMRIでないと診断困難です。
 15  16

 17・18は腰椎の単純写真です。この方は1年余り腰痛に悩まされていました。17では1カ所に異常があります(矢印)が、18側面像ではほとんど正常です。
 17 前後像  18 側面像

 しかしMRI(19,20)により大きな病変があることがわかりました(後に病理組織検査で甲状腺癌の転移であることが判明)。
 19  20

 21は頭部の単純写真ですこの方は頭部打撲の既往があります。21では異常なく、CT検査(22)で慢性硬膜下血腫であることが判明しました(矢印)。
 21  22

 レントゲン検査は歴史が古く、読影技術の積み重ねも膨大で、ポピュラーで有用な検査ですが限界もあります。現在MRIをはじめ各種の画像検査が非常に進歩しておりますので、レ線検査にこれら最新の画像診断を併施することによってさらに診断精度を上げることが期待されます。
(医師 斎藤禎量)