アレルギーを起こす植物油(リノール酸) | |
厚生労働省が発表した「日本人の食事摂取規準(2005年版)」で生活習慣病予防に重点を置いた新たな目標を設定しました。 それによると 増やすべき栄養素として食物繊維,n-3系脂肪酸、カルシウム,カリウム 減らすべき栄養素としてコレステロール、ナトリウム(食塩) 脂質(脂肪)については脂肪の量だけでなく、質を考慮すべきであるとして飽和脂肪酸、n-3系脂肪酸、コレステロールの目標値を策定しました。 ところで聞き慣れない飽和脂肪酸、n-3系脂肪酸とはなんでしょう。 脂肪はグリセロールに3個の脂肪酸が結合していて、融点の違いで常温で固体の動物性の脂肪と、液体の植物性脂肪(油)とがあります。脂肪の違いは結合している脂肪酸の種類の違いによります。 脂肪酸は炭素、水素、酸素の三つの元素からなり、鎖のように連なった炭素に水素と酸素が結合しています。炭素には原子を結合する手が4本あって、炭素同志の他に水素と結合していて、鎖の末端で酸素とも結合しています。 脂肪酸は炭素の手が全て水素と結合している飽和脂肪酸(動物性脂肪)と、水素原子が2個とれて炭素同志が二重結合した主として植物性脂肪の一価不飽和脂肪酸(リノール酸)と、2個以上二重結合がある多価不飽和脂肪酸(α-リノレイン酸)に分類されます。炭素間二重結合の位置が炭素鎖の終わりから三つ目にあるとn-3脂肪酸、六つ目にあるのをn-6脂肪酸といいます。 n-6系脂肪酸のリノール酸は体内でアラキドン酸に変換して、ロイコトルエン、プロスタグランディン、血小板活性化因子を活性化して、喘息やアトピー性皮膚炎をおこすことが知られています。最近の薬学の進歩でアレルギーを抑える製剤が各種開発されています。これらの薬の主作用はアラキドン酸の作用を抑えることにあることからもリノール酸の問題点が理解できます。疫学調査から、日本人の脂肪摂取量が増えてきて、大腸癌、肺癌、など欧米型のガンが増え、動脈硬化症も主要な死因になってきたのは、摂取した脂肪の内のリノール酸のとりすぎが原因であろうと説明されています。厚生労働省がはじめてn-3系脂肪酸の摂取を勧める根拠となったのは、欧米型のガンの増加とアレルギー疾患の増加を抑えようとしているからです。植物性だからと、かつては推奨されていた、そしていまも多くのヒトがそう信じている、リノール酸を含む紅花油、ひまわり油、コーン油、月見草油、大豆油、マヨネーズ、ドレッシング、マーガリンを無闇にとることは賢明ではありません。 これに対してn-3系脂肪酸はα-リノレン酸として魚介類に含まれていてエイコサペタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)になり、心筋梗塞、脳血栓症、糖尿病合併症などを予防する効果が動物実験や疫学調査で明らかになっています。精製されたEPAは血小板凝集を防ぎ、血流を改善する作用がある製剤として広く使われています。食用油としては紫蘇油、荏胡麻油、食用亜麻仁油などが勧められています。リノール酸系の脂肪酸の過剰摂取で起きたアレルギー体質を改善するためには対症療法の薬とともに、長い期間をかけて辛抱強く食生活を改善しなければなりません。 リノール酸の過剰摂取を警告して日本脂質栄養学会は会長提言としてn-3系脂肪酸(リノール酸系)とn-6系脂肪酸(α-リノレイン酸系)の比率を現在の4から2にひきさげることとし、 @日本人のリノール酸摂取量を減らす栄養指導をすすめる。 A育児用粉ミルクの必須脂肪酸を母乳のレベルに近づける。 B原材料名として食用油脂の表示を、現在の一括表示(植物油脂、動物油脂、加工油脂など)から油種名を表す食品名の表示とする。 C油脂含量が50重量%を越える食品についてはn-6系とn-3系の含量を表示する。 の4点を上げています。 |
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命を縮める自然に無いトランス型脂肪酸 − 各国で使用禁止 | |
10月30日のNHK夜のニュースでニューヨーク市では、食品にトランス型脂肪酸の使用を禁止することで業者が困っていると報じていました(さっと消えてしまうテレビのニュースですから正確な記憶ではありませんが)。その後の報道で、ケンタッキーフライドチキンでトランス型脂肪酸の使用を止めて、これを含まないように加工した、大豆油を使うことを決めたそうです。トランス型脂肪酸は不飽和脂肪酸に化学的に水素を添加して作られた飽和脂肪酸の名称です。トランス脂肪酸といわれても多くのヒトは何のことか理解できなかったことでしょう。 不飽和脂肪酸は融点が低いので液状ですが、飽和脂肪酸は常温では固体です。身近な食品としてはマーガリンです。植物油に水素を添加したり、イワシやサンマから魚粉を作るときにでた魚油に水素を添加してマーガリンとします。魚油からのマーガリンは業務用に回され、一般消費者の目に直接触れることはありません。マーガリンの他にも、ショートニング、クリーム、ケーキなどにも使われます。ところで、天然にある飽和脂肪酸と水素添加した脂肪酸は化学式は同じでも、天然の脂肪酸をシス型、人工の脂肪酸をトランス型と分子の構造が違います。トランス型脂肪酸は、牛肉に微量ある以外、天然には存在しません。 マーガリンはバターの代用として直接食卓に上がりますが、業務用として揚げ物がカラッと乾いて、歯触りがよいということでポテトチップスやフライドチキンの油に添加されますし、クッキー、クラッカー、ショートケーキのクリーム、パン、アイスクリーム、レトルトカレーの中にも添加されています。 マーガリンを例にとれば、植物性油脂から作られるから動物性油脂より健康によいと考えますが、トランス型脂肪酸の安全性は長期の実験で証明されなければなりません。しかし、現在のところ安全性を確認したというデーターは産学協同でだした短期の実験でしかありません。大豆油に水素を添加してネズミに食べさせたところ寿命が短くなりました。この水素添加大豆油を酵素で分解して脂肪酸にしてネズミに与えると寿命短縮は起きませんでした。水素添加した植物油や菜種油などでは蛋白尿がみられ、血小板数が減っていることが観察され、腎の顕微鏡レベルの血管が傷害されていました。(奥山治美‥薬で治らない成人病.黎明書房1999)ドイツではトランス型脂肪酸とクローン病との関係がしられて、以前から水素添加したトランス型脂肪酸を食品として認めていませんし、フィンランドではソフトマーガリンを長年とっていた人たちで死亡率が上昇したなどの問題がでて、欧米各国も使用禁止し、トランス型脂肪酸を含まないマーガリンに変えていくように動いています。 |
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( 医師 相川 達也) |