1.PCR(Polymerase Chain Reaction)とは
 ポリメラーゼ連鎖反応といいます。ごく簡単に理解するには、DNA(デオキシリボ核酸)を効率よく増幅するための技術です。
2.歴史
 生物の性質や病気の本態の研究には、その生物の持つDNAの情報が今や必須となっています。1970年代にDNAの解析技術や組み替え技術が進歩してからは尚更のことです。但し、いきなりDNAの実験をしようと思っても、その量は人が簡単に扱えるほどには多くありません。従ってその研究対象とするDNAを増やしてからでないと解析できません。以前はこのDNAを増やす(増幅)のに大腸菌の力を借りていました。大腸菌の中に解析したいDNAを組み込み、大腸菌が2倍に増殖すると組み込んだDNAも2倍になり、倍々にして十分に増幅してから解析しました。大腸菌の増殖に時間が掛かるので全体で数日以上の手間が掛かりました。
3.PCRの発明
 1983年4月アメリカ合衆国カリフォルニア、当時既に変人として通っていたキャリー・マリスはガールフレンドを乗せた車を運転中に、突然PCRの原理を思い浮かべたと言われています。大腸菌の力を借りずに純粋に化学反応でDNAを増幅する技術です。DNAの増幅したい部分を挟んで両端にプライマーと言う短いDNAを準備します。これにポリメラーゼというDNAの鎖を延伸するのに必要な酵素を入れて反応させます。これを次々に繰り返すことでDNAをわずか数時間で百万倍以上に増幅できるようになったのです。このPCRのおかげでヒトの遺伝子の解析などが飛躍的に進むことになりました。
マリスはこの功績で1993年のノーベル化学賞を受賞しました。
(医師 小島眞樹)