はじめに | |
医学はそもそも人類の慰めと癒しの技術として発達してきました。その起源は、人類成立以前にまで遡れると考えられています。即ち、鳥や猿などの毛繕いの際に、相手の肉体的な欠陥に注意して腫れ物や傷を舐めてきれいにする行動が認められていますので、そこから既に医学的な行動が始まっていたと見る立場も成り立つのです。現代に生きる我々も、このような医学の発達の歴史に思いを馳せて、全ての医療行為がお互いの慰めと癒しに繋がるように留意していきたいものです。今回のテーマであるC型慢性肝炎のインターフェロン治療の公費助成も、そういった観点から考えると、患者さん方が生活に不安感を持たないように、お互いの慰めと癒しの観点からも是非実施して頂きたいと思います。更に肝炎に止まらず全ての病気で困っている人々が、せめて生活の不安感が生じないような、癒しをもたらせるような医療制度になって欲しいと思います。 | |
C型肝炎の公費助成の背景 | |
◎政治の流れ 本来医療は我々国民の健康に関わる基本的な重要問題です。従って政治が医療を扱う場合には、中長期的な観点から、国民、中でも弱者の立場に立った政策の立案、議論が望まれるところです。しかし現状は、二つの大政党の政争の具の一つかもしれません。それは兎も角、なるべく純粋に解説を試みたいと思います。 ◎与党案 C型肝炎の患者さんのインターフェロン治療に対して、来年度から公費助成を行う方向で検討がなされています。これは、民主党が薬害肝炎患者に対する救済法案を臨時国会に提出しようとしている動きを睨んでそもそも始まりました。与党案は立法化ではなく、予算措置で行うことを方針としています。 |
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公費助成案 | |
◎C型肝炎患者さんの現状 1.感染者数 日本全国でウイルス感染者は150〜300万人ほどと推計されています。これまで国のC型肝炎対策は、検査、相談、普及啓発や肝疾患診療連携拠点病院の整備などにとどまり、治療については助成してきませんでした。 2.薬害肝炎訴訟 ひろば145号でもご紹介しましたように、ウイルスが混入した血液製剤でC型肝炎に感染したとして国と製薬会社の責任を問う訴訟が各地で提起されています。実際に、これまでに大阪、福岡、東京、名古屋の4地裁では国の責任が一部認められた判決となっています。こうした状況を受けて現在はC型肝炎のインターフェロン治療の公費助成が問題となっているのです。 ◎具体案 残念ながら11月1日現在、正式な与党案の提出にはあと約1週間程度かかるといわれています。以下は今のところ伝わっている案の紹介です。 1.新聞報道で インターフェロン治療は現在飲み薬と組み合わせて行うと概ねC型肝炎患者の5〜6割程度で完治が望めます。治りやすいタイプだと8割以上が完治します。一方治療費が嵩み約1年間の治療で300万円弱といわれています。患者負担が3割として80万円程度と推計されています。この費用が高額なため治療を最初から諦めたり、途中で断念する患者さんが結構多いのです。現在伝わっている案では、7年程度を掛けて年間予算200億円以上で所得に応じて自己負担分を公費で助成しようというものです。低所得者には自己負担約1万円程度といった案が報道され、高所得者には助成しないように段階を作るようです。 2.東京都の助成制度 東京都は国のC型肝炎治療の先を歩んでいます。平成19〜23年に「ウイルス肝炎受療促進集中戦略」の一環として以下の対策をいち早く打ち出し実行していますので紹介しておきます。 a 普及啓発 検診受診勧奨キャンペ ーン等の広報活動 b 肝炎ウイルス検診 潜在する感染者の発見の取り組みを強化 c 医療体制の整備 d 患者支援 医療相談会、医療講演会、 人材養成研修会など 医療費の助成制度は右記の総合的な対策の一部として打ち出されました。1医療機関ごとに、入院、外来別に月額35400円までを自己負担の限度額としています。従いまして先に紹介した年間約80万円の自己負担が約半分程度に軽減されます。東京都は年間で約1万件の助成を行う見通しを立てています。東京都の施策に賛成できるのは、単に金銭面の助成だけに止まらずに、かかりつけ医、肝臓専門医の両者の連携した治療の確立を目指していることです。 |
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おわりに | |
我々国民の現状からかけ離れた政策を行われては堪りませんが、かといって人気取りの政策のみが行われ、その事のみをよしとする風潮になれば国の行く末を危うくしないとも限りません。何事も基本の精神を大切にする観点から今後行われる政策を厳しく吟味していく目≠持つことこそが大切です。社会的にも医学的にも弱者を含めてお互いに助け合っていけるような社会を目指したい、その達成のために必要な政策の一部として、C型肝炎の患者さん方への公費助成が是非実現するように願って止みません。 | |
医師 小島眞樹 |