感染性腸炎のほとんどがウイルスによるものです。その中でも発生頻度が多いノロウイルス、ロタウイルスなどが知られています。
 11月頃から発生し2月位まで続きますが、時に集団発生して新聞などで報道される事があるのでご存知の方も多いと思います。感染性胃腸炎のなかではノロウイルスによるものが最も患者数が多く、それだけ感染力が強いという事になります。
【臨床症状】
 それではどのような症状があるのでしょう。まず、嘔吐と下痢です。どちらかだけの事もありますし、片方のみ強い症状の事もあります。発熱も伴いますがせいぜい38度までです。同時に腹痛や胃の不快感、脱力があり、程度の差はありますがかなり症状は重いです。一日中このような状態が続き飲食ができませんから、全身倦怠感、脱水状態になります。しかし、酷い症状が1〜2日続くものの、その後は比較的早期に軽快し後遺症も残しません。ただ、もともと疾患のある方や体力の無い高齢者、乳幼児では脱水や吐物の誤嚥で誤嚥性肺炎を併発したり窒息したりする危険性もあります。私も数年前、看病してしっかり感染し、酷い目に遭いました。一晩中嘔吐と下痢。体中のものが外に出てしまうような感じでした。明け方にようやく落ち着き、仕事に出たものの、かなり辛く、きっとその日に受診された方よりも一番体調が悪かったと思います。1日長かったこと……。
【感染経路】
 ではどのような経路で感染するのでしょうか。これには二通りあります。
 一つは人から人への感染です。嘔吐物や便の中に含まれるウイルスが手とか手で触れたものを介して口に入って感染したり、嘔吐物の飛沫から感染したりします。ですからご家族のどなたかが感染しますと、2,3日で家族中に感染する事があります。特に子供さんが感染しますと、次にお母さんが発症する事が多いです。外来でも次々ご家族がこられる事も多々あります。
 もう一つは汚染された水や食物からの感染で、調理する方が感染していて、その方を介して汚染された物を食べたり、直接ノロウイルスに汚染されている、水や食品を食べた時です。
【予防】
 感染を防ぐには、手洗いとうがいが基本です。手洗いは、調理前、排便後は当然、感染している方に触った後石けんを十分泡立て流水で洗いタオルは一回ごとに新しい物を使用するか紙タオルで使い捨てにします。嘔吐物は素手で触らずビニール手袋使用(私は出先だったので素手で処理して感染しました)石けんに直接ウイルスを不活化する効果はありませんが、手の汚れを落とす事でウイルスを手指から剥がれやすくします。調理器具やタオルなどは塩素系の漂白剤や熱湯で処理すれば失活化できます。特にお年寄りや子供さん、疾患をお持ちの方はできるだけなま物は避けて、しっかり加熱したものを召し上がってください。凡そ食品の中心温度85度以上で1分間以上加熱すれば感染性は無くなると言われています。飛沫感染もありますので嘔吐物が触れた物は良く消毒して下さい。
 診断は臨床症状の他嘔吐物、糞便からウイルスを検出しますがまだ一般的ではなく外来では行っていません。血液検査から病状の重篤さのみ判断し治療の内容を決めています。
 最後に治療ですが、このウイルスに効果のある坑ウイルス薬は残念ながらまだありません。そのため対症療法と言って症状に見合った治療を考えています。特に高齢者や抵抗力の無い方は脱水になりますので、水分や栄養の補給を十分にし、経口で無理な方は必要に応じ補液(点滴など)をしますが、下痢止めはウイルスを腸内に留まらせる事になりますので使用しません。細菌の感染も疑われる時には抗菌剤も投与する事もあります。とにかく十分に水分を摂取し休養なされば、普通の成人の方なら数日の経過で完治します。ただ数週間はウイルスの排泄がみられますので、排便後の手洗いは重要です。
 感染症は集団で発生すると非常に危険です。万が一感染したときには蔓延しないように十分に注意なさって下さい。
医師  相川礼子