2008年10月18日(土)に筑波大学臨床医学系講師の福永潔先生と当院の小島眞樹副院長による“患者さんとご家族のための勉強会”を開催し、当日は約240名の方にご聴講いただくことができました。ありがとうございました。 | |||
【肝癌を突き止める】 | |||
【はじめに】 われわれが何かものを探すときにはどのような行動をとるでしょうか?闇雲に対象とするものに突撃するようなことはまずしません。例え必ず見つけるんだと、燃え上がるような熱意を持っていたとしても、事前の情報収集なく探す行動に出たのでは極めて効率が悪いことが多いからです。実際には本やインターネットあるいはその道に長けた人によく話を聞いてから万全の準備をして探す行動に移ることが普通です。肝癌を突き止めることも同様です。肝癌は闇雲に見つけようとしなくとも、今までの統計から極めて発症頻度の高い集団が明確になっています。即ちB型、C型の肝炎ウイルスが慢性に感染している方から高率に発症してきます。つまり、肝癌を突き止めるにはウイルス性の肝炎、肝硬変の方たちを重点にみていくことが極めて重要なことなのです。 【高危険群を囲い込む】 平成18年の統計では全部位の癌の死亡総数は33万人。そのうち男性で肝癌は第3位、2万2千人余り、女性では第4位、1万1千人余りが亡くなっています。全癌死亡数の約1割の方が肝癌で亡くなっています。その肝癌の約8割がC型慢性肝炎あるいはC型肝硬変、約1割がB型慢性肝炎あるいはB型肝硬変の方です。肝癌を突き止めるためにまずB型、C型肝炎ウイルスが慢性に感染している方々を囲い込むことが重要です。さらに、男性、高齢、アルコール多飲等の因子が加わると余計に危険性が増大することもわかっています。 【癌を予防する】 上記のように高危険群がはっきりしているため、究極にはB型、C型のウイルス肝炎の根絶が肝癌の予防です。現在両肝炎ウイルスは献血からはほぼ完全に除外され、B型肝炎は母児感染予防により新規の発症は極めて限られています。これらにより、将来はかなり限定された感染症になっていく可能性が大きいといえます。しかし、現在日本国内にはB型、C型併せて約300万人のキャリアの存在が想定されています。この方たちの肝癌の予防が急務の訳です。C型慢性肝炎の方をインターフェロンで治療すると、発癌を抑制できることが分かっています。インターフェロン治療でウイルスを駆除し肝機能が安定した方たちでは発癌リスクを減少させられるため、なるべくインターフェロン治療を行ってウイルスを駆除することが望まれています。B型慢性肝炎、B型肝硬変の方たちへのインターフェロン治療の発癌抑制の効果は残念ながらそれほど明瞭ではありません。しかし、インターフェロン治療や飲み薬でB型肝炎ウイルスの増殖を邪魔して肝機能を安定させることが、やはり発癌の抑制に有効だと信じられています。 【監視する】 肝癌を予防することが何より大切ですが、不幸にして慢性肝炎あるいは肝硬変から解放されない場合にはどうしたら良いのでしょうか?それは他の癌でも当然言われていることですが、なるべく早期に発見することに尽きます。具体的には、a・(採血で分かる)腫瘍マーカー、b・超音波検査の二つの検査を定期的に行って異常をなるべく早く認識できるようにすることです。腫瘍マーカーは毎月、超音波検査は3〜6ヶ月毎に繰り返していくことになります。更に必要時にCT、MRIを組み合わせていきます。 【診断】 ○腫瘍マーカー 腫瘍マーカーは2種類あります。AFP(アルファフェトプロテイン)とPIVKAUです。腫瘍マーカー陰性(腫瘍マーカーが上昇していない)の癌も約2割はあるので一概には言えませんが、連続して測定することでその動きから判断することが多いです。つまり上昇傾向にある場合には要注意、といった判断をすることになります。逆に、癌と診断がついてから腫瘍マーカーが低下した場合には治療が上手くいっていることになります。 ○画像診断 1.超音波検査(最近は造影超音波検査も施行します) 2.X線CT 3.MRI 4.血管造影 5.PET-CT 画像診断はこのように各種ありますが、何と言っても中心は超音波検査です。まず、高危険群の方々にはほぼ3ヶ月ごとに超音波検査を受けていただくようにしています。そこで癌を疑うような怪しい所見が得られた場合にはその他の検査を2〜3種類組み合わせてより確証を得るようにしていきます。どの組み合わせで癌が確実に診断できるとの約束事はありませんが、超音波検査以外にCTあるいはMRIの何れかで確証があることが重要です。また、ある時点で大丈夫(癌ではない)との判断がなされたとしても引き続き慎重に画像を含めて経過を追っていかなければなりません。患者さんによっては‘以前大丈夫と言われたのにまだ検査が必要なのか’と言われる方がいますが、慢性の肝疾患がある方は残念ながら継続して経過を診ていくことがとても重要なのです。 【治療】 肝癌の治療が他の臓器の癌と大きく異なる点は肝臓を全部摘出できないことです。しかも、肝癌ができる状態になった肝臓は、本来の予備力を使い果たした状態であることが多く、手術自体が困難なことも少なくありません。そこで既に述べたように監視によりなるべく癌が小さい内に発見する努力をするのです。肝癌が20o以下で単発の場合は、肝臓の予備力が十分にあるようならば、まず手術を勧めていくことになります。その他のものを含めてガイドラインがまとめられています。(図-1) 【まとめ】 肝癌を突き止めるためには、まず高危険群か否かを明確にすること。次になるべく予防すること。腫瘍マーカーと画像診断とで監視し、早期診断の努力をすることに尽きます。治療は個々の症例ごとに異なりますので主治医とよく相談していきましょう。 (医師 小島 眞樹)
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【肝癌には三位一体の治療体制が大切】 | |||
外科手術が肝細胞癌の最も有効な治療手段であることは間違いありません。しかし、癌が早期発見されても手術できないことがあります。逆に癌が進行していても切除できることがあります。その差は肝機能です。 肝細胞癌には胃癌や大腸癌と異なり、『肝機能』という『癌の進行度』以外の要素で治療手段や治療効果が大きく左右されるという特徴があります。肝臓を大事にしてください。そのために患者さんはかかりつけ医との二人三脚で、肝臓にやさしい生活習慣を身につけ、継続的な肝庇護治療を行うことが必要です。 肝細胞癌の特徴の2番目は再発率が高いことです。手術で肝細胞癌を切除した後も生涯の経過観察が必要です。途中でやめてはいけません。かかりつけ医の指示を守って、定期的に検査を受けて下さい。 肝細胞癌の特徴の3番目は治療法が多彩であることです。手術以外ではラジオ波焼灼術と肝動脈塞栓術が主な治療法です。筑波大学附属病院ではラジオ波焼灼術は内科医、肝動脈塞栓術は放射線科医が担当しています。これらの治療手段を駆使して、再発後も癌とうまくつきあい何年も元気で過ごしている方がたくさんいらっしゃいます。 肝癌治療に最も大切なのは肝臓を守ろうとする患者さん自身の努力とそれを支えるかかりつけ医です。そこに大学病院が加わった、三位一体の治療体制により、よりよい肝癌治療が可能になると考えています。 (筑波大学 臨床医学系講師 消化器外科 福永 潔)
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