持続感染する肝炎ウイルスには前回述べましたB型肝炎ウイルス(HBV)に加えてC型肝炎ウイルス(HCV)が有ります。HCVはHBVとは異なり、成人でも感染すると持続感染に移行しやすいという特性があります。またHBVの感染が主に母児間感染などで成立してきたのに対して、HCV感染は薬物常用者などの麻薬の回し打ち、刺青、あるいは輸血、医療や民間療法での不適切な処置などによる感染者が多くを占めているとされています。ここではHCVの遺伝子型(ゲノタイプ)に関することを述べます。HCVのゲノタイプの分類もHBVと同様にHCVの核酸(RNA)を構成している塩基配列の似かより方の度合いで分類しています。現在では大きく11種類のゲノタイプ(1型〜11型)に分類されていますが、さらにそれぞれのゲノタイプの中でもう少し細かく亜型(サブゲノタイプと言われ、例えば1a、1bなどと分類)として全部で100グループほどになっています。
 世界でのHCVゲノタイプの分布を見ますと、ゲノタイプ1(1a、1b)は割合が最も高く(全体の約60%)全世界に分布していますが、日本や欧州あるいは北米などでは、他のゲノタイプに比べて高い割合で感染しています。次いでゲノタイプ2も世界的に広がっています。また、ゲノタイプ3も見られますが、東南アジアに相対的に多くみられます。
 ゲノタイプ4は中東や中央アフリカあるいはエジプトから見出されていますし、ゲノタイプ5は南アフリカから、そしてゲノタイプ6〜11はアジアから報告があります。
 日本ではHCV持続感染者が200万人ほどいると推定されていますが、持続感染者のうち、ゲノタイプ1bが70%ほど占めておりゲノタイプ2aが20%、ゲノタイプ2bが10%程度の割合です。
 HCVのゲノタイプに関連して、ゲノタイプの分類法とは違った、しかも簡便な検査法を用いた分類としてセロタイプがあります。セロタイプはHCVに感染した人が作り出すHCV抗体と呼ばれる蛋白質を検出することによる分類で、ゲノタイプとセロタイプの関係は次のようになります。ゲノタイプ1が感染した時に作り出されるHCV抗体を保有するグループはセロタイプ1、ゲノタイプ2が感染した時のHCV抗体を有するグループはセロタイプ2と名付けられます。前述しましたように、日本ではHCV持続感染者はゲノタイプ1b、2a、2bを合わせてほぼ100%ですので、セロタイプ1抗体が陽性となった感染者はゲノタイプ1bのHCVを保有し、セロタイプ2陽性となった人はゲノタイプ2aあるいは2bの感染者と推定しています(ゲノタイプ2aと2bをセロタイプでは実用的には分けられません)。
 HCVゲノタイプの臨床的応用の一つとして、抗ウイルス薬剤の治療効果の推測などに使われています。HCV感染者の抗ウイルス薬剤による治療効果もHBVの時と同様にゲノタイプによって違いが出ています。ゲノタイプ2aと2bとの間では治療効果は同じような成績を示しますので、日本ではセロタイプ1(ゲノタイプ1b)とセロタイプ2(ゲノタイプ2a或いは2b)の間でよく対比されます。HBVの場合もそうなのですが、抗ウイルス薬剤の治療効果といっても、患者の年齢、性別、ウイルス量の多寡が大いに関係してきます。それに加えてゲノタイプ(セロタイプ)の関与がみられます。見易くするために、年齢分布、性別の割合やウイルス量の分布をある程度同じにして、ゲノタイプ(セロタイプ)だけで分類して治療効果を見ますと、現在一般的に施行されているインターフェロンとリバビリンとの併用療法では、治療後にウイルスが消失する割合は、ゲノタイプ1b(セロタイプ1)では50%程度ですが、ゲノタイプ2a或いは2b(セロタイプ2)は80%以上と高い割合を示します。このように現時点ではゲノタイプ(セロタイプ)によっても治療効果が異なりますので、治療を進める上でHCVゲノタイプ(セロタイプ)を調べておくのは意味があることかと思います。
 現在の治療法の効果にはゲノタイプ(セロタイプ)によって差が見られますが、新薬も開発されつつありますので、近い将来ゲノタイプ1b(セロタイプ1)でも治療効果が一層高まると思われます。

(研究室長 津田 文男)