水戸市の健康診断が今年も6月15日から実施開始となりまして、私も外来で受診をお勧めしています。健康診断の是非については種々意見があり、無用論を唱える方もおいでですが、私は必要と思っております。何故なら今の医療保険の制度では、疑われる、あるいは現疾患に関する検査以外は実施出来ず、もし検査しても診療報酬が支払われません。ですから例えば外来に狭心症で通院されている方に胃の検査はできず、あるいは肝疾患で通院されている方には胸部写真は撮れません(もちろん、何らかの症状があれば検査可能ですが)。 
 ひとの病気は一つではありませんから、時々全身の検査をしてみる事は大切で、症状が出てからでは、癌などは特に手遅れです。
 実際当院では、毎年300人の方が水戸市の健診をお受けになり、1%の方に癌あるいは前癌状態、20%の方に現病以外の疾患が見つかっています。
 このように、症状の出る以前に健康診断で疾患が見つかれば当然、癌も早期なので治療ができますし、その他の疾患も軽度で治療を開始する事が出来ます。 
 健康診断は非常に重要だと思うのですが、水戸市の健康診断は平成20年から大きく様変わりしました。
 それ以前の健康診断は年齢や介護認定の有無に関わらず、平等に検査が行われていましたし、その手続きも、医療機関での処理も簡単でした。しかし、20年度からは、生活習慣病を予防する為の特定健康診査(対象は40歳以上75歳未満の水戸市の国民健康保険加入者)と、高齢者健康診査(75歳以上の後期高齢者医療保険の加入者)とに分類され、その料金も健康診査内容も複雑に決められています。
 
 第1表をご参考下さい。
 表に詳細項目というものがあります。19年までは全員実施出来た項目ですが、今は、75歳以上の方は、生活機能評価という25項目のチェックリスト(第2表)にご記入いただき、その結果で詳細項目が出来るか否か篩い分けをされる訳です。このチェックリストは、運動能力・栄養状態・口腔機能のそれぞれの機能を評価するもので、チェックした個数で特定高齢者候補者となり、その結果一部の詳細項目の検査も受ける事が出来ますが、このチェックリストも日常の生活をされている方には、ほとんど該当しません。従って詳細項目の検査は受けられません。これらの詳細項目は高齢者程実施すべきもので、貧血の有無で胃癌や大腸がんなど、心電図では虚血性心疾患や不整脈が、眼底検査では動脈硬化がそしてクレアチニンでは腎機能障害が発見出来ます。これらの疾患は高齢者ほど多く、かつ生命に関わってきます。どうして、75歳以上の方全員に検査がなされないのでしょうか。
 更に問題点は、老健や特養など施設に入所されている方は、がん健診以外は受診できません。当医療法人では老健も運営しており、今まで水戸市に住民票のある入所者の方には、健康診断をしていただいておりましたが、今は一部の項目しか検査できず、その結果何らかの疾患があったとしても把握出来ず不安です。
 そして、既に介護保険を利用してサービスを受けている方は詳細項目を受ける事ができません。
 また、高齢者に限らず各種のがん健康診査についても前年度未実施の方には、受診券が届きませんから受けないでしまう事もあり得ます。むしろそのような方にこそ受けていただきたいのです。
 一方、料金についても無料の条件が70歳から75歳以上に引き上げられました。
 これらの改訂は後期高齢者の医療制度になってからの事です。とにかく一日も早くこの制度が改正される事を望みます。

 当院では、担当職員で組織された健診委員会を月一回開催し、健診の様々な事象を検討し、より良い健診を目指しています。
 前回の会議の時にメンバーの一人である看護師が申しました。
『今の健診は、病気を見つけない健診だ』と。皆一様に頷きながら、でも何ともやりきれない気持ちになりました。
 それでも健康診断はお受け下さい。御自分の命の為、より良い老後を過ごす為に、面倒がらずお受け下さい。





(医師  相川 礼子)