今回は前回に続き高血圧と心臓のお話です。前回は高血圧について述べました。今回はどうして高血圧がいけないのか、何故治療が必要かについて述べたいと思います。 |
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何故高血圧を治療しなければならないかと申しますと、血圧を放置しておく事によって
1.脳血管障害:脳梗塞、無症候性脳血管障害
2.心疾患:冠動脈疾患、心不全、心肥大、心房細動
3.腎疾患:腎不全
4.血管疾患:大動脈瘤、動脈硬化性末梢動脈閉塞症などが生じてきます。今回は2の心疾患についてのお話です。
高血圧によって引き起こされる心臓病の代表的なものが冠動脈疾患(心筋梗塞、狭心症など)心不全、心房細動、心肥大です。もちろんこれらは高血圧によってのみ発症するわけではありませんが、強い原因となります。その中でも、生命予後に強い関わりを持つ心筋梗塞と狭心症、そして増えている心房細動について述べさせていただきます。 |
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心臓の表面には冠動脈といって心臓の筋肉を栄養している(酸素を供給している)血管があります。この冠動脈に血栓(血液の固まり)がつまる(図1)と、それより末梢に血液が流れませんので、心臓の筋肉は死んでしまいます。死んだ筋肉は動きません。つまり心臓が動かなくなり人も死んでしまう怖い病気です。冠動脈の太い部分が詰まる程死ぬ確率が高くなります。
症状は胸全体の痛み、締め付けられる感じ、えぐられるような痛みなど、表現は多彩です。持続時間は15分以上と言われていますが、持続的に痛む方も、断続的に痛む方もおられます。以前はある程度高齢の方が多かったのですが、最近は若い方にもみられ、実際私が診察した方では28歳で急性心筋梗塞を発症しています。
また、高齢者や糖尿病のコントロール不良の方は痛みを感じにくくなりますので、注意が必要です。
診断には症状はもちろん、特徴ある波形の変化を心電図で得られれば確実ですが、心筋梗塞の部位によってはわかりにくい事もあります。一方、血液検査でも診断は可能で、しかも今は採血して15分程度で迅速診断ができ、治療に役立っています。御存知のニトロールは心筋梗塞には効果が無く、狭心症との鑑別診断に役立ちます。
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症状は胸部全体の締め付けられるような圧迫感や重圧感、もやもやした感じなどこちらも多彩な表現があります。典型的な狭心症は労作時、つまり坂道や階段を昇ったとき、平地でも重い荷物を持って歩いたとき、あるいは早足、駆け足した時などに生じます。1〜3分程度持続し安静にしていると(立ち止まって休むと)自然に症状は消失します。時に30分以上断続的に続く時もありますが痛みの程度は心筋梗塞よりは軽度です。
狭心症はニトロールが有効ですので、狭心症と診断された方は絶えずニトロールを持参する事になります。
一方で狭心症は診断がつけにくい面もあります。何故かと申しますと、症状が出ている時でないと心電図に変化が現れないからです。その為に、胸部症状があり狭心症あるいは不整脈などが疑われる時に、24時間心電図(長時間心電図/Holter ECG)を装着していただいています。それにより狭心症など冠動脈疾患、あるいは治療すべき不整脈などが検出されます。
写真1は24時間心電図を装着したところです。数年前までは500g位の記録器を着けていただいていたのですが、今はこのように小さくなり入浴も可能になりました。
狭心症にはこの他に、安静時や夜間の決まった時間に起きる狭心症、無痛性狭心症といって症状は何も無いが、24時間心電図をとりますと立派な狭心症の所見が出る方もおられます。いずれも労作時の狭心症より重篤なことがあり、即精密検査や治療を必要とします。御家族に冠動脈疾患を起こされた方がおいででしたら、遺伝的要素もありますので検査をお勧めします。
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これは残念ながら24時間心電図でも診断がつかない狭心症です。
原因は心筋の中を走る細い血管の収縮や閉塞で起るのではないかと言われています。特に中年女性に多いとも言われています。表1に特徴を纏めました。突然死の原因になるような怖いものではありませんが、不安のため鬱的になったり、ドクターショッピングの原因となることもあります。
次に冠危険因子(冠動脈疾患になり易い原因)ですが、表2のように強いものと中程度のものがあります。ほとんどが自分で防げるものですので、如何に日常生活が大切かわかります。
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これには慢性と発作性とがありますが少なくとも年間100万人は発症者がいると言われており、かつ増加しています。何故心房細動が怖いかと申しますと、左心房の中に血栓ができ、それが脳に飛んで脳栓塞を発症し易いからです。
最後に予防ですが生活習慣の修正が必要です。表3にお示ししましたが中でも塩分制限が大事です。減塩についてはひろば166号をご参照下さい。意外に食塩摂取量が多い事がお分かりになると思います。高血圧予防には1日6g未満と言われています。日本人は世界で1番塩分の摂取量が多く11g、次が中国、インド、イタリアと続きます。
高血圧も遺伝の傾向がありますので、若い時から薄味に慣れ、将来高血圧にならないように、そして高血圧によって引き起こされる脳や心臓、腎臓などの重篤な疾患にならないように願っております。
2回にわたった血圧と心臓のお話は終わりですが、御不明な点やご不安な事がございましたらどうぞ声をおかけ下さい。
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