 |
平成23年東北地方太平洋沖地震による東日本大震災で亡くなられた方々のご冥福を祈り、被災された方たちの一時も早い復興を祈念いたします。この度の震災は地震の揺れのみならず津波の恐ろしさを我々日本人に強く印象づけました。更には安全神話が簡単に崩れ去った原子力災害による追い打ちです。正に未曾有の国難に直面していることは誰もが理解しているところです。そこで放射線の基本事項を分かりやすく解説することと致しました。 |
 |
科学上の様々な発見が人類の有史以来蓄積されてきました。しかし原子力については、19世紀末のレントゲンによるX線の発見、20世紀初頭のキュリー夫人によるラジウムの発見から人類の歴史に登場してきた新しい知見です。アインシュタインに代表される量子力学の多くの研究者たちの努力により20世紀を通じて急速に発展し、第2次世界大戦でアメリカが原子爆弾の開発に成功するまでになりました。20世紀は原子力の時代と言われました。 |
 |
原子力研究の発展に大きく寄与したキュリー夫人はラジウム研究に際して放射線防護は全く行っていませんでした。これが原因で白血病を発症して亡くなったと謂われています。このように放射線は長い期間浴び続けると癌を発症するという考えは一般的に受け入れられています。それでは放射線とはどういった線なのでしょうか?
一般的には電離作用(物質の成り立ちの基本である原子の軌道電子をはじき飛ばすことによって、原子を陽イオンと電子に分離する作用)を有する高いエネルギーを持った電磁波や粒子線のことを放射線と言います。何のことだかわかりませんね。簡単に言えば目に見えない光線のような物であり、エネルギーを持っていて当たった物質を変性させる力を有した物と考えて下さい。放射線を出す力を放射能、その物質を放射性物質と言います。我々は知らないうちに日々生活していく上で空気、大地、食べ物等から少量の自然放射線を必ず受けています。しかし、何らかの原因で大量の放射線を受けると健康を害するようになるのです。その原因と、どの程度以上放射線を浴びたら危険かが今問題なのです。 |
 |
前項でも述べましたが、我々はどのように注意していても自然に放射線を浴びています。それを自然放射線と言って世界の平均では年間約2.4mSvになります(呼吸からラドン1.26mSv、大地から0.48mSv、宇宙から0.39mSv、食物から0.29mSv、合計2.42mSv)。急性障害はそれを遙かに上回る200mSv以上を一遍に浴びたような時に出現する症状です。7000mSv以上の大量被曝では99%以上の人が死亡します。これは広島、長崎の爆心からほぼ1qでの被爆放射線量に当たります。つまり、両市で有効な遮蔽物(コンクリート製の建築物等)がなく1q以内で被爆した方たちは、たとえ爆風や熱線から生き延びられても、その後急性の放射線障害を発症して実に多くの方々が亡くなったのです。その事実ともよく合致します。このような大量の被曝を想定する事態としては、原子力事故のごく近くで作業する場合、医療用放射線での誤った使用、核戦争などでしょう。現在日本はこの原子力事故に見舞われているのですが、既に避難が行われていますので一般住民が大量被曝する事態は考えにくいですし、彼のチェルノブイリ事故でも大量被曝者は現場で事態の収拾に尽力した原子力発電所の従業員、消防隊からしか出ていません。 |
 |
晩発性障害とも言われます。被曝して数年して現れる様々な障害のことです。主に発癌と関連して言われることが多いのですが、広島、長崎での我々の同胞の貴重なデータから、白内障、脳血管障害、高血圧、虚血性心疾患、脂肪肝など癌以外の疾患の発症率も高くなっていることが判明しています。しかし、ここでは紙面の関係から癌の発症率だけを述べておきます。広島での被爆後調査から、癌は広島市の非被爆者と比して1000mSvの被爆あたり約0.15%増加していました。つまり10mSvでは0.0015%ですから、100万人の人が10mSv被曝すればその0.0015%、即ち15人が余計に発癌すると言われています。この10mSvの被曝は現在進行形の福島原発事故において、一般住民でも十分現実味のある数値です。官房長官はじめ政府関係者は「直ちに心配する数値ではありません」と、宣っていますが、これらの事実をきちんと理解して我々も報道を受け止めなければなりません。ただし、最も配慮しなければならないのは乳幼児、妊婦、これから妊娠する可能性のある女性です。被曝は少ないに超したことはありません。一人一人が科学的な知識に基づいて行動することが肝要です。 |
 |
医療分野も原子力分野も「安全を向上させると効率が落ちる」と言う共通点を有しています。そして事故が起きれば当事者の人生が著しく損なわれてしまいます。残念なことに、人間の行為である以上、ある一定の確率で医療事故も起きますし、同じように原子力災害も生じてしまうのです(人災を含め)。この地震列島に原子力発電所がひしめく状況が果たして全国民のきちんとした議論の結果の選択であったのか、甚だ疑問です。せめて今後の原子力行政には一人一人が識見を有していかなければならないのではありませんか。 |
 |
|