心不全という言葉は、皆さんお聞きになったことがあると思います。心不全というのは、簡単に言いますと、「症状を伴う心室機能障害」と定義されます。今の医学でも難治性疾患で、心不全の原因あるいはその程度にも因りますが、心不全症状を起こした方の約5割は5年以内に亡くなっておられます。しかも、高齢化に伴い有病者数は急増しています。この怖い心不全について解説致します。

 心不全は、急性心不全と慢性心不全とに大きく分けられます。しかし、どちらの場合でも心臓機能の最悪の状態であり、致死性不整脈・呼吸困難・浮腫などが生じ、突然死の頻度が高い病態です。

 まず、急性心不全には、虚血性心疾患(心筋梗塞etc)・種々の原因の心筋変性(特発性・アルコール・感染・高血圧etc)・心臓弁膜症・不整脈などが原因の左心不全と肺塞栓・肺血栓・高度の貧血・甲状腺疾患などによる右心不全とがあります。また、全く平常の生活をしている方に、突然に発症するときと、慢性心不全の急性増悪という形を取る場合とがあります。何れにしても、あとに述べますような症状があればすぐに受診する必要があります。 

 急性心不全の場合には、分あるいは時間単位で急激に症状が進行し症状も激しいです。この時の症状は原因疾患により多彩ですが、ほぼ共通なのは、起坐呼吸(仰臥位で眠れず坐位を取る姿勢となる)・夜間発作性呼吸困難・労作時の息切れ・むくみ・食欲不振・易疲労性などが挙げられますが、心筋梗塞が原因の時には強い胸痛を伴います。時にはショック状態となり意識が無くなることもあります。とにかく、今まで感じたことが無いこのような症状が急に生じ、増悪するときにはすぐに受診が必要ですし、場合により救急車を要請してください。

 一方、慢性心不全は、何らかの疾患が基礎にあり、その結果徐々に心機能が低下し、全身の血管、腎臓、脳に循環障害を起こし、最後に全身の臓器不全に陥る病態です。

 原因疾患としては、高血圧・心筋変性・心臓弁膜症・陳旧性心筋梗塞・不整脈(最近は心房細動が増加しています)・動脈硬化性疾患・肥満・アルコール多飲などがあります。これらの状態が長く続きますと徐々に左室肥大、左心機能低下、そして心臓の弁膜にも障害が生じ心臓から全身に血液が充分に流れずに循環障害が起きるのです。慢性心不全は月から年の単位で徐々に進行しますので、なかなか気づかず、症状が出たときにはかなり進行した状態です。この時の症状としては、急性心不全の場合とほぼ同様ですが、最初は症状が軽微なため、しかも徐々に進行しますので、歳のせいかななどと放置してしまう方が多いです。従って、前述しました基礎疾患をお持ちの方は、定期的に心臓の検査をなさることをお勧めします。

 検査としましては、医師による診察の他、心電図・胸部X線・心臓の超音波検査などがありこれらの検査で不整脈の有無・心臓の大きさ・肺のうっ血の程度・左心室収縮能の程度・心臓弁膜症の有無などを調べます。また血中のBNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)を定期的に測定することで心不全の発症を的確に捉えることが可能となりました。

 何れにしても、心不全がある程度進行しますと不可逆的になり、心不全増悪による入退院を繰り返すようになりますが、増悪の誘因は塩分制限の不徹底が最も多く、その他、過労、内服薬の中断や不徹底、精神・身体のストレス等も多く、これらは患者さんご自身で防げることです。

 心不全は誰でもがなり得る疾患・病態です。特に高血圧など基礎疾患がある方、メタボリック症候群の方、不整脈のある方は定期的に心機能をチェックなさって重篤な状態にならないようになさってください。

(医師 相川}子)