肝癌の一般的知識と当院の肝癌治療

一般的知識

1.現在日本の肝癌の実状

我が国を含むアジアは、世界的に見て肝癌の高発生地域です。厚生労働省発表の死亡統計では、2000年に男性23,602人、女性10,379人が肝癌で亡くなり、更に増加中です。特に男性では肺癌、胃癌に次いで死亡原因の第3位を占めるまでになり、人口10万人当たりの死亡率は、38.4の高値となりました。

2.肝癌の診断

現在増加中の肝癌の治療のためには、やはり他の癌と同様に早期発見、早期治療が必要です。手段としては、@腹部超音波検査、A肝CT、B肝MRI、C腫瘍マーカー、D狙撃生検、等があり、それらを組み合わせて早期診断に努めています。これらは、今までも詳しく特集したことがありました。

3.肝癌の治療

 @アルコール注入療法、Aラジオ波焼灼療法、B手術、C肝動脈塞栓療法、D放射線療法、等の様々な治療法があります。患者さんの病状を第一に、本人の希望も聞き入れて、単独あるいは組み合わされて、治療が為されていきます。

当院の肝癌治療

今回は、当院において1993年4月1日から2002年1231日までに施行された延べ390回の肝動脈血管造影検査について解析しました。

1.肝癌の確定診断

観察期間はほぼ約10年間に相当します。その間に、延べ390回の肝動脈血管造影検査を、実人数185名の患者さんに施行しました。結果は127例が肝癌と診断され、27例は肝癌ではないと診断されました。残り31例は他のご病気でした。表1に示しましたように、肝癌と確定診断された殆どの患者さんがB型、C型のウイルス性肝炎または肝硬変でした。診断時の平均年齢は概ね60歳代でした。

2.肝癌と確定診断後の治療法

初回にどういった治療法を選択したかで分類しますと、

@アルコール注入療法 18名、Aラジオ波焼灼療法13名、B手術15名、C肝動脈塞栓療法71名、D放射線療法(プロトン療法)3名といった結果でした。無治療を選択された患者さんも7名いらっしゃいました。(もちろん、初回の治療法なので、その後他の治療を組み合わせて行った患者さんもいらっしゃいました。)

表2に各治療法別の患者さんの背景因子を示しました。背景因子が細かく解析できた人数は、合計108名でした。このため、各治療法別の人数も少なくなっています。この表で分かることは、手術や、ラジオ波焼灼療法を選択した方は肝機能の予備力が高い傾向でした。また、治療しなかった方は、腫瘍の数がやはり多い傾向でした。

3.治療手段別の累積生存曲線(グラフ)

どんなに上手く治療が行われても、肝癌には再発がつきものというのも現実です。何故なら、肝癌の発生した肝炎や肝硬変といった肝臓の母地が変わっていないからです。このため、どんなに患者さん本人が頑張って治療に励んでも、残念ながら亡くなられる方もいらっしゃいます。累積生存率を求めますと、全体では1年生存率83%、3年生存率39.7%、5年生存率24.3%でした。治療法別には、手術、アルコール注入療法を選択された方が比較的長く生存された傾向でした。但しこれは、手術やアルコール注入療法を選択できただけ、他の条件が良かったとも言えるので、一概に他の治療法が良くないとは言えないのです。

4.まとめ

日頃多くの肝癌の患者さんの診療で感じてきたことは、果たして自分たちの提供している医療が充分な水準なのかといった患者さん側の期待や、我々の側の自問があったわけです。今回の解析では、日本の一流の医療施設とも比較できる生存率でありました。もちろん、手術やラジオ波焼灼療法など当施設だけではなく、他の施設の協力があっての結果でした。これらを踏まえて、今後も多くの患者さんたちのご期待に添えるように、一層努力していきたいと考えております。

(小島 眞樹)